コーヒーは進化している。
BRUTUS、5年ぶりのコーヒー特集。
『ブルータス』最新号は「おいしいコーヒーの進化論」
コーヒー先進都市オスロからやってきた、代々木公園隣『フグレントウキョウ』紹介、ノルウェー・オスロのコーヒー文化について、進化するコーヒーを知るための17のキーワード、NYの新世代コーヒーウェーブなどなど。京都、沖縄、福岡、岡山のコーヒー事情、“COE”入賞豆お取り寄せガイドも。
マガジンワールド | ブルータス – BRUTUS | 742
5年前にはスペシャリティコーヒーがきてたころですかね。
丸山珈琲と堀口珈琲のおいしい豆が出ていたり
とにかくこのあたりからぼくは熱くなりました。珈琲に。
コーヒー序説
【コーヒー序説1/5】
初めに日本のコーヒー史をおさらいしておきます。昭和の主役は自家焙煎を謳う街の店。静かな渋い空間、マスターがネルドリップでいれるこだわりのブレンド、憧れのブルーマウンテン。そこには“珈琲道”ともいうべきニッポンの喫茶店文化がありました。1990年代終わりから2000年代頭にはいわゆるカフェブームが到来。カフェはオシャレな若者が集まる空間、という新たなポジションを得ます。ほぼ同時期、黒船スターバックスをはじめとするシアトル系カフェの上陸と、エスプレッソをベースにしたラテやカプチーノの普及は、オフィス街で働く人々のコーヒーへの意識も変えました。その後、2000年代後半にはコーヒー界にまた大きな変化が起きます。5年前の2007年、本誌は「おいしいコーヒーの教科書」特集を発売。その際に取り上げたのは…、[スペシャルティコーヒーの普及。豆も農園で選ぶ時代へ]、[バリスタの活躍。カフェ店員からスペシャリストへ]…という2つのテーマでした。あれから5年経った2012年。いま、コーヒーはどのように進化しているのでしょうか。
【コーヒー序説2/5】
世界のコーヒー生産国で全体にレベルアップが続いています。生産者がその年に作った豆の出来を競い合う国別の品評会(COE=カップ・オブ・エクセレンス)は99年のブラジル大会に始まりましたが、現在は開催10ヵ国まで拡大。こうした品評会に出品される豆の品質は年々向上し、高値で売れることから多くの生産者にも意識改革をもたらしています。中にはブランド化する農園も登場。中米パナマ西部・ボケテ地区に位置するエスメラルダ農園は、珍しい品種「ゲイシャ」の栽培で成功。これは世界中のバイヤーが競って指名買いするシンデレラ・コーヒーとなり、いまではこの農園単独でオークションを行っているほどです。このゲイシャを筆頭に、やはり独特の香味が評価される大粒種パカマラなど、いわばトレンド品種も現れました。さらにナチュラルかウォッシュトか、など生豆の精製にも注目が集まっています。また、コスタリカなど一部の生産国では、豆を大区画でひとまとめに売らざるを得ない状態から抜け出し、生産者が各自で精製処理しようという動きも起きています。ブラジルでも、リオなど大都市へ出ていた若い後継者が世代交代で農園に戻り、新たな栽培技術を試す、といった例が出てきました。ルワンダやブルンジといったアフリカでも、政情不安が落ち着いてきた結果、インフラ整備に伴い品質は上がってきました。キーワードは「テロワール」。ワインと同様に、土地ごとの地理や土壌、天候などの違いによって一杯の味はまったく変わる。そんな共通認識が飲み手の間でも生まれつつあります。豆を農園別に売る店がさらに増えてきたのも、その現れの一つでしょう。現在、さらなる差別化を図るトップバイヤーやロースター(焙煎業者)は、単に優良農園から良い豆を買うだけでなく、それぞれの目指す味の方向や向上を狙って、栽培や精製についても生産者へ様々なオーダーをするなど、より積極的に関わっています。)一杯のおいしいコーヒーを出すならまず産地へ。いずれにせよ、これは世界の潮流です。
【コーヒー序説3/5】
2000年代、北米西海岸を中心に話題を呼んだのは「サードウェーブ」と呼ばれる動きでした。〈インテリジェンシア〉〈スタンプタウン〉など当時の新興ロースターは営業スタイルから店舗デザインまで、大手にはない新しい風を業界に吹き込みます。しかしその動きも一段落し、もはや準大手に成長した当のロースターたちはNYにこぞって進出するなど、次の波が迫っています。〈インテリジェンシア〉のマイケル・フィリップスがWBC(世界バリスタ選手権)優勝後に独立し、仲間とともに昨年LAに〈ハンサム・コーヒー〉を起こした例のように新たな人材も出始めています。これらはポスト・サードウェーブと呼べるのかもしれません。一方で強い影響力を持つのは欧州、特に人口あたりでは世界一のコーヒー消費エリアでもある北欧です。世界一バリスタを過去4人も出したコペンハーゲンをはじめ、各都市は富裕な購買層をバックに、世界先端のコーヒー文化を牽引中。オスロでは世界バリスタチャンピオン、ティム・ウェンデルボーらを中心にここ数年で新しい抽出器具エアロプレスが普及。トップクラスの豆が持つ繊細かつ華やかな果実味を引き出すため、あえて浅煎りにするスタイルとともに、注目されています。
【コーヒー序説4/5】
バリスタについてはどうでしょうか。近年の競技会では、シグネチャードリンク(創作コーヒー)の奇抜さばかりを追う傾向はやや下火になり、最近は、むしろ産地と豆への理解や、そのフレーバーの表現に重点を置いたプレゼンテーションが増えています。抽出方法では、ドリップの再発見があります。コーヒーといえ(シアトル系に代表されるように)マシンを使うエスプレッソ、という傾向が長く続いていましたが、西海岸やNY、欧州でいまハンドドリップが見直されています。つまり“マシンで出す”から“マニュアルで淹れる”という流れです。長年ドリップに精進してきた日本のメーカー〈ハリオ〉のV60が、その器具として世界標準並みに普及。やり方や細部に差こそあれ、日本でお馴染みの手で淹れるスタイルが海外でトレンドに。日本のカフェとコーヒー文化に目を向けてみましょう。いま急増中の業態、それはコーヒースタンドです。10年ほど前のカフェブーム当時、カフェは空間を売るもので、凝ったインテリアやオシャレな音楽をベースに、各種フードやアルコールも提供し、客単価を上げていました。しかし今は、狭い物件を路面で確保し、コンパクトに商売する例が増えています。こうしたスタンド型店舗では小さなカウンターでさっと立ち飲み、もしくはテイクアウト、が基本スタイル。フードはあっても少しで、ドリンクメニューもスタンダードを中心に絞り込まれます。こうした“空間”でなく“一杯”を売る傾向は、NYやロンドンなど、土地が限られた欧米大都市でも多く見られ、今後の東京でもしばらく続きそうです。
【コーヒー序説5/5】
人に目を向けてみましょう。70年代後半〜80年代生まれ、つまりスターバックスの洗礼を最初から浴びた世代が続々と顔を出してきました。サードウェーブの影響もあり、味の違いを皆で体験するパブリック・カッピングなど新しい取り組みに積極的な店も続々。彼らはキャリアの初めからいまのコーヒーに接した、いわばスペシャルティ・ネイティブ世代です。それゆえか、店頭でも今さらあえてスペシャルティ、と謳わない例も増えています。東京のみならず京都や福岡などの主要都市に、そんな新世代のバリスタやロースターが次々と出ています。コーヒーは依然として過渡期にあります。より上質な豆が手に入る、つまり「スペシャルティコーヒーを置くことが特段にスペシャルでもなくなってきた」時代だからこそ、今後は豆のキャラクターへのより深いアプローチが重要視されるでしょう。北欧の先端性、米国の創意やアイデア、そして日本で培われてきた手の技術。それぞれを知り、いいものをうまく採り入れれば、世界のどこにもないコーヒーライフが実現できるかもしれません。
しかし、コーヒーが本当においしい季節です。